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片頭痛

片頭痛は血管の頭痛です

 

頭蓋内外の血管が拡張して周囲の炎症が生じ、血管に分布する神経が刺激されて痛みを感じます。そのため、頭痛のピークでは心臓の鼓動に一致する周期でズキンズキンと痛む(拍動痛)のが特徴です(拍動痛が明確でない場合もまれにあります)。

​厳密には、片頭痛の発症や維持には血管以外の要素(神経、発痛物質)がかかわっており、単純に「血管の頭痛」とも言い切れないのですが、臨床的には血管の要素が片頭痛の主要部分と考えられます。

 

頻度の多い少ないはあるものの、あくまで発作的な頭痛です。一年中毎日、一日中痛いのは片頭痛ではありません。片頭痛であったとしても、他の慢性頭痛の要素が加わっています。

 

「片」頭痛なので左右どちらか一方と思われがちですが、両側が痛むこともあり、同じ患者さんでも時により片側性・両側性が混在することもあります。

 

 

片頭痛の症状

大まかにとらえると、片頭痛は、

・脈打つ痛み

・動くと響く

・吐き気がする

・明るい光がつらい

・音に過敏になる

という特徴があり、このうちのいくつかがそろえば診断が可能です。

 

片頭痛に先立って「前兆」が起こることがあります。典型的な前兆は「閃輝暗点」と呼ばれる視覚性の前兆です。視野の一部にジグザグ型の光る部分が現れ、徐々に拡大したり回転したりします。光った部分は見えにくくなります。周囲は普通に見えています。このような状態が30分程度続いたあと自然に消失しますが、入れ替わるように頭痛が起こってくるのが「典型的前兆を伴う片頭痛」です(ほかのタイプの前兆もあります)。

 

前兆を伴うのは片頭痛患者の3割程度とみられています。同じ患者さんでも発作により前兆を伴う場合、ない場合が混在することもあります。

 

 

片頭痛の治療薬

片頭痛には今世紀に入って特効薬ともいえる「トリプタン」が使えるようになり(わが国で保険適応になった)治療面で大きく進歩しました。それまでは有効な薬がなく、鎮痛薬や血管収縮薬を早めに飲む、それで治らなければじっと我慢するしかなかったのが実情でした。

 

2021年現在、国内で使用可能なトリプタンは5種類。そのうちイミグラン(スマトリプタン)には錠剤のほか注射薬・点鼻薬の剤型があり、注射薬には医療機関で使われるアンプルのほか、自己注射が可能なキットもあります。自己注射は内服薬でコントロールの難しい片頭痛や群発頭痛に用いられます。

 

5種類のトリプタンは、大半の片頭痛患者に有効で、片頭痛の診断に間違いがなければ一般の頭痛薬・鎮痛薬よりはるかに強い効果を示します。多くの方で内服後1〜2時間以内には頭痛が消失し、普通の生活に戻れます。

 

5種類のトリプタンには即効性のもの、効果の強いもの、マイルドに長時間効くものなどそれぞれに特徴があります。個々の患者さんで合う、合わないがいくぶんありますので、効果と副作用を見ながらクスリを選択していくことになります。

 

 

注意が必要な「薬物乱用頭痛」

一般の鎮痛薬も早めに飲めばたまに効果があるので、片頭痛患者さんの一部はちょっとおかしいと思ったらすぐに鎮痛薬を飲むという習慣が身についてしまいます。これを繰り返しているとしだいに服薬頻度が増え、ついには毎日のように鎮痛薬を飲んでしまうようになります。

 

その結果、「薬物乱用頭痛」という新たな頭痛が起こり、片頭痛発作のみならず、毎日ダラダラ頭が痛い、朝起きると頭が重い・スッキリしない、鎮痛薬を飲むと一時的には楽になるけど昼前にはjまた痛くなって薬を飲んでしまう・・・という「慢性連日性頭痛」に悩まされることになります。今でも薬物乱用による慢性連日性頭痛の患者さんは多いと思われます。当院に頭痛で来院される患者さんの2〜3割は薬物乱用頭痛の要素をお持ちです。

片頭痛の予防薬

 

片頭痛発作の頻度が多い場合、また頭痛の強度が強く日常生活に及ぼす影響が大きい場合は、予防薬を用います。予防薬は頭痛発作のあるなしにかかわらず毎日服用します。予防薬で直ちに片頭痛発作が消失するわけではありませんが、片頭痛の

・頻度を低下させる

・重症度をおさえる

・持続時間を短縮する

・急性期治療の効果を高める

目的で使われます。

予防薬を定時服用したうえで片頭痛発作が起こった場合はトリプタンなどの急性期治療薬を使います。

トリプタンや予防薬の使い分けには絶対的な基準があるわけではなく、個々の患者さんによって有効性が異なるのが実情です。

 

新たに薬剤を導入する場合は、効果・副作用・経過を見ながら選択・調節していく必要があります。

 

新たな予防薬:CGRP関連抗体薬

2021年4月、エムがルティ(一般名:ガルカネズマブ)という新しい片頭痛予防薬が薬価収載されます(日本で使えるようになるという意味)。このクスリは片頭痛の発症に関与するCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド:calcitonin gene-related peptide)という物質に対する抗体を注射薬に精製したものです。

片頭痛の発症期には何らかの刺激により三叉神経の終末から放出されたCGRPが、血管に存在する受容体に結合します。これにより血管は拡張し、血管周囲の炎症や神経の過敏性も生じて片頭痛発作が起こると言われています。

エムガルティがCGRPに結合すると、CGRPが受容体に結合できなくなります。このことにより血管拡張や血管周囲の炎症が抑えられ、片頭痛の頻度・強度が低下すると考えられています。

先だって行われた国内の治験データでは、約半数の人が1か月あたりの片頭痛の有病日数が半減、さらにそのうちの半数(=全体の4分の1)の人は4分の1以下、全体の1割の人は片頭痛が起こらなくなった、との良好な成績が得られています。

 

エムガルティは注射薬で、月に1回、医療機関で注射を受けることになります。有効であれば片頭痛の発作回数は減り、内服の予防薬を毎日飲む必要がなくなるかもしれません。

その後、アジョビ(一般名:フレマネズマブ)、アイモビーグ(一般名:エレヌマブ)という2種類のCGRP関連抗体薬も発売されさらに選択肢が増えています。

画期的な新薬ともいえるこれらのCGRP関連抗体薬ですが、薬価が高いのが難点で、治療費がかなり高額になってしまいます。患者さんの片頭痛の頻度・重症度、他の薬剤(発作治療薬・予防薬)の有効性、生活への影響の程度を総合的に考慮した上で導入を決めることが大切です。

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