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腰椎椎間板症

図1 正常な椎間板

図2 変性した椎間板

椎間板の痛み:椎間板症

 

腰痛の原因として多いもののひとつに椎間板の痛みがあげられます。椎間板ヘルニアとは異なり、椎間板そのものが痛みの発生源になる状態です。

 

前屈みや長時間の座位で腰や臀部の深部に重だるい痛みを感じるのが特徴です。立ち上がって動いた方が楽になります。

 

椎間板は上下の椎骨の間にあり、荷重を支えるとともに衝撃を吸収し、円滑な運動を可能にしています。椎間板の外周は線維輪と呼ばれる強固な軟骨、中心部は髄核と呼ばれるゲル状の半流動体で形成されておりこの二重構造が強固かつ柔軟に脊柱を支えています。

 

若く健康な椎間板(図1)には線維輪の外側・表層3分の1の深さまで神経が存在していますが深部には神経が存在しません。また、表層の神経も痛みを伝える神経ではなく体の位置情報などを把握するための感覚を伝える神経です。

ところが、加齢に伴い椎間板の変性が進むと上記の二重構造は失われ、線維輪の亀裂から内部に向かって神経線維が進入して行きます(図2)。しかもこの神経には痛覚を伝える神経も含まれています。椎間板が痛みを発生する「準備状態」が完成するわけです。

 

しかし、これだけで痛みが生じるのではなく、椎間板に侵入した神経が何らかのきっかけで過敏になることで椎間板の痛みが発生します。おそらく神経の炎症が関与していると考えられています。炎症を起こした神経はひじょうに敏感になり普通では痛みを起こさないような刺激で痛みを感じるようになります。椎間板の圧力が高まる前屈みの姿勢、たとえば洗顔や靴下をはくといった動作で痛みを感じます。急激に発症すると「ぎっくり腰」の状態にもなり得ます。

さらには座っているだけでも腰椎は前屈し、椎間板の圧は増大します(図3)。つまり、椎間板の腰痛は座位でしだいに増強し、むしろ立ち上がって動いた方が楽になるという特徴があります。そしてその痛みは腰の深部や臀部の重苦しくだるいような痛みです。

 

椎間板症の痛みがある人は、イスに座っていても自然に背筋が伸びてきます。その方が腰椎前屈の度合いが減って椎間板にかかる圧が減少するため楽なのです。ソファのような柔らかいイスに座ったりあぐらをかいたりする姿勢は最悪で、正座をした方が楽だと言います。というのも背筋を伸ばした方が椎間板の圧が低下し神経に対する刺激が減るからです。

図3 姿勢による椎間板内圧の変化

図4 椎間板変性と不安定性

図4中段は椎間板が変性する過程で腰椎の不安定性が生じた状態を示しています。かなり誇張した図ですが、このような状態になるとさらに痛みが起こりやすくなります。

 

さらに変性が進むと図4下段のように椎間板がつぶれたように厚みを減じ、かえって安定する時期が来ると言われています。こうなると椎間板の痛みは起こりにくくなりますが後方にある脊柱管(下肢に行く神経が収まったスペース)は狭くなるため、また別の症状(腰部脊柱管狭窄症)が出る場合もあるでしょう。

 

椎間板の変性そのものは逆戻りすることはありませんが、内部の神経の炎症は長期的には軽減・終息します。炎症が治まれば神経の過敏性も消失し痛みはなくなります。しかし自然経過のままでは痛みが軽減するまでに非常に長い期間を要する場合もあります。

 

ペインクリニックでは椎間板の痛みがより早く軽減するように、神経ブロック療法・薬物療法を駆使して治療を進めていきます。

 

神経ブロック療法としては硬膜外ブロックが基本になります。これは椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の標準治療でもあります。硬膜外ブロックを行うと脊柱管内に注入された薬液が病変部位である椎間板そのものに到達することに加え、椎間板内に侵入し痛みを伝達する神経(洞椎骨神経)にも作用することから、このブロックを反復することにより徐々に椎間板症の痛みが軽減します。

 

症状の経過によっては椎間板内に直接針を刺入して薬液を注入する方法(椎間板内注入療法:椎間板ブロック)や、下位腰椎椎間板の痛み信号を伝達する経路である第2腰椎神経根のブロック(神経根ブロック)を行うこともあります。

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